2011 乃木坂ハウス

街並みを透視する斜めの視線

ロラン・バルトは「東京の中心は空虚である」(『表徴の帝国』新潮社1974)と述べたが、実際は無数の細かな戸建住宅群によって満たされているともいえる。そうした住宅街の一角にこの住宅は建っている。法令によるヴォリューム規制をなぞるように、近景には高さ10m前後の小建築、遠景には幹線道路沿いの高層ビルが、それぞれ統一された街並みに寄与するというより、個々に主張し合う表情を見せながら共存している。

約10 坪の敷地は、幅4m と3m の区道が交差する角地に面しており、反対の隣地側はL 字型の3 階建マンションに囲まれている。こうした狭小な土地(許容容積160%)に対して、最大限の床面を確保するために、地下階、駐車場、床下収納、ペントハウスといったボーナススペースを建物内に組み込んだ。

矩形の土地の4 隅をそれぞれ非建築化することで数地全体の3 割のヴォイド(建蔽率70%)を確保し、同時に、道路に対する斜線制限を<天空率>によってクリアすることを試みた。これによって高さ約7.6m の八角柱体を2 つの道路に限りなく近接して建てることが可能となった。

開口部については、ほぼ全ての窓を道路境界線に対して45 度に傾けて配することで、隣家との見合いを回避すると共に、採光や通風といった自然エネルギーを有効に取り込むようにした。街路に面する外部面が隣家に比べてやや突き出しているため、それぞれの窓からは街路空間をパースペクティブに望む風景が展開している。

建坪が狭小サイズの都市住宅においては、階段室をいかに配置するかが空間構成上決定的となるが、ここでは、地下室から屋根裏までを直結する螺旋階段をセットすることで、建具を最小限に留めつつ、各フロアが(天井高は不均一であるが)動線的にできるだけ並列的になるよう設計した。

こうした垂直方向のワンルーム構成は、室内環境に対する十分な制御が必要となるが、ここではスラブ面による蓄熱式輻射冷暖房システムを採用し、解決している。一方壁面は、断熱サンドイッチパネルと石膏ボードの重ね張りによる外断熱・外耐火によって、従来ポシェである構造柱間を全て収納スペースや設備スペースとして活用している。

空調ダイヤグラム(スケッチ)

天空率検討図
配置図