用途 専用住宅(現在、ゲストハウス)
場所 神奈川県足柄下郡湯河原町
構造規模 木造2階建
基礎形状 布基礎
空調形式 個別エアコン
敷地面積 226㎡
建築面積 86㎡
延床面積 112㎡
竣工年 2012年
意匠設計 アトリエ・アンド・アイ岩岡竜夫研究室
施工 ひとみ建設、東京理科大学岩岡竜夫研究室
掲載誌 新建築住宅特集2015/2




集落内に展開する立体路地を庭で繋ぐ
真鶴半島の付け根に位置する福浦集落は、漁港を中心としてすり鉢状を成し、港へと至る唯一の車道の両脇の急斜面沿いに民家が散在し、それらを繋ぐ歩道(=みなし道路)が石積みの擁壁と階段と共に複雑に展開している。狭い道幅と段差によって車でのアクセスが不可能な民家が多く、そのため(高齢者ではなく)若者世代は、緩斜面でアクセスの良い周辺地域へ新居を建てる傾向にある。近年では集落の中心部の高齢化と空洞化が進み、空き家の増加や古い家屋の解体が目立つようになった。
改修した住宅は、すり鉢状を成す集落内の東側斜面のほぼ中腹に位置している。コンタに浴って平らに開拓された細長い敷地は、西側の擁壁と東側の歩道に挟まれて耳たぶのような形をしている。1963年に地元大工によって平屋の木造家屋が新築され、16年後の1979年に2階部分と1階の和室が増築された。2階のベランダからは海から山へと続く集落全体が一望できる。しかしこの住宅に辿り着くには、真鶴駅と漁港を結ぶ集落内唯一の車道から約100段の石段を登らなければならない。特殊な周辺状況とは対照的に、建物の外観は切妻屋根が2段重ねになったバナールな形状で、棟を漁港のある南に向けて西面に玄関があった。玄関ポーチの脇の私有の階段は公共の階段に連結し、そのまま車道へ降りて駅や港へと続く。
みなし道路に面する敷地であるため、建物のヴォリュームの大きな変更は制度上困難である。内部の改修において、老朽化の激しい1階の床(仕上げ及び床下)と水回り(トイレ、浴室、キッチン)の改修が最優先され、その改修に付随する工程などを考慮してプランの変更がなされた。例えば、既存の浴室や便所をそのままにして、別の場所に新たな浴室を設けることで、建物が作業宿泊所(=飯場)として常時機能することになる。
全体のプランは、玄関を中心とするホール型から、新設した通路状の土間を中心とする廊下型へと改変された。すなわち、既存の4つの部屋と新たな水回りはそれぞれ土間通路に直結し、互いに独立性を高めることで多人数が同時に宿泊できるようになっている。
またこの土間通路は、南面に新設した玄関ドア、西側下屋部分の収納スペース、北側のキッチン、そして既存の勝手口を蛇行して繋げており、モルタル仕上げであることで建物内外での活動の連続性を担保している。プランの変更で玄関の位置が西から南へと大きく変わったが、そのことで周辺環境あるいは集落全体に対する建物へのアプローチも変化した。
元々の玄関は、車道や駅へ続く階段の延長として最も効率のよい位置に設置されていたが、改修により既存では家の奥にあった庭が前庭となり、その庭先に新たなゲートを設けることで、裏側にあったスロープ状の歩道が漁港へと至る主たる動線となる。それに伴いオモテとなった小さな展望台のような庭が、除々に他者を招き入れるようになれば、集落全体の活性化にも繋がっていくことになると考えている。






