カテゴリー: works

  • 2001 八丁堀のスリットハウス

    都心の隙間に住空間を構築する

    東京都心の商業地域に小さな住環境を仕掛けた例である。タワーマンションと呼ばれる都心高層マンションが全盛の現在、その足元には今もなお間口の狭い低層住宅がひしめく小さな街区がいくつも残っている。都市に住まう人々の全てが眺望の良い高層集合住宅に暮らしているわけではないし、また人々はそうしたスタイルだけを追い求めているのではない。

    敷地の間口幅がきわめて狭く、プライバシーや日照の確保が困難なエリアの中で、快適で魅力的な住環境を獲得するために、ここではまず建物の縦断面のレイアウトを練ることから設計を始めた。

    狭い土地とはいえ、建物は地面と直に接することができるし、頭上には青空や星空も残っている。また視線の高さ関係によって、街路のヴィヴィッドな風景を室内に取り入れることもできる。

    こうした利点の1つひとつを住宅の断面に対応させていくことで、21世紀の東京長屋(ローハウス)としての新たなタイポロジーを浮かび上がらせることができるはずである。

    なおこの建物は、小さな敷地の集合体を1つの大きな敷地にまとめることのスケールメリットに対して抵抗できずに、竣工10年後に消滅した。

    2階平面図
    1階平面図
    床下収納階平面図
    西-東断面図
    南-北断面図
    断面詳細図
    配置図
  • 1999 アビタ戸祭

    近隣住戸との関係をつくる ミニ開発の新たな手法

    この計画は元々約1000㎡あった1つの敷地の中に複数の賃貸用戸建住宅を建設したものである。いわゆるミ二開発の一種であるが、ここでは従来の開発形式に見られる不合理な部分を見直して、建物のつくられ方によって生まれる新たな住環境を見つけていこうと試みた。

    敷地を分割する際に留意した点は、そこに建物が配置されたときに、隣接する周辺環境に対して悪影響を与えないことと、すでにあった屋敷林をできるだけ残すことであった。結果として、敷地北側に幅約4mのアプローチ道路を設け、それに対し約10mの間口間隔で4つに分筆することにした。こうして敷地は一旦分割された状態となったが、建築の設計においては1000㎡の領域を一体のものとして計画を進めた。

    まず地面から約2.7mの高さに、1枚の人工地盤(プラットフォーム) を、既存樹木を避けながら敷地全体にわたって設置した。さらにこのプラットフォームの上に、構造上1階の部分と分離した4つの小さな木造建物を、互いに距離をあけながら配置した。これらの建物によって区切られた屋外エリアは、それぞれ各住戸専用のオープンテラスに対応している。1階は、各住戸すべてにわたり北側ピロティ部に玄関ポーチと駐車、駐輪スペースを設け、さらに既存樹木を中心に2つの中庭(パティオ)をつくった。全体として、建蔽率及び容積率が共に50%以下という、比較的ゆったりとした住環境が敷地全体にわたって展開している。

    2階のオープンテラスは、形式上は各住戸のためのプライベートテラスであるが、居住者の住まい方次第によっては住戸相互のコモンスペースとしての利用が可能なように、隣の住戸への連絡動線としても機能するようになっている。この関係は1階の木製ルーバーで囲われた中庭と南庭のエリアでも同様である。

    こうした構成をとった背景には2つの理由がある。1つは、建築あるいは土地が隣接しあい集合化したときの空間上のメリットを最大限に生かすことを目指したことと、もう1つは、近隣同士の人間関係の形成を建築自体が強引に主導するのでなく、そのためのタネを建築内外の各所に蒔いておくことぐらいの適度さが、居住者に意識的な社会的ライフスタイルの選択を促すことになってよいのではないか、という我々の認識からである。

    2階平面図
    配置兼1階平面図
  • 1999 T 平面の家

    敷地内を仕切り繋ぐ住宅

    この住宅は夫妻とその母及び祖母の4人のための住まいである。初めて更地となった現場の中央に立って四周を見渡したとき、敷地の内外にわたって散在する様々なエレメント(隣家、墓地、防風林、土蔵、倉庫、庭木、外便所など)がやや未整理なかたちで同時に視野に入ってきた。こうした景観は、建築によってある秩序を設けることで再整備が可能であり、建てるべき住宅にその機能を担わせることが必要であると考えた。

    平面がT型であることで、同一平面内で建物内部を3つのゾーンに分けることが容易となり、そのことで建物の幅が室の幅と同一にできた。ここでは内外の連続感は開口部の大きさに依存するのではなく、外部との距離感で獲得される。その結果、室内のあらゆる位置・角度から、複数の庭の景観が様々なかたちで常に見え隠れし、それらが室相互のインテリアに差異をもたらしている。

    さらにT型のヴォリュームは、敷地全体を3つのエリア(オモテ/オク/ウラ)に仕切ると共に、外部に立ったときの視野の方向をコントロールする。各エリアは、L型の外壁面、既存の倉庫、塀などによって比較的閉じた小規模な庭となっているが、住宅の開口部を通じて、相互に視線的、動線的な繋がりをもたせている。屋根の延長として建物の外周に巡らされた軒先は、建物本体のシェルターとしての性能を高めると同時に、建物内部のための外部動線を形成しており、また庭の垂直方向のスケールを決定づけている。

    このように、当初の印象であった<未整理な状態>は、平面的な操作によって次第に整理されていった。しかしながら何度も現地を訪れるうちに、この場所のもつもうひとつの特性は、時間の堆積度がまったく異なるものが混在している状態ではないかと気づき始めた。墓地・土蔵・小社・防風林の歴史的重みと、波板倉庫・ブロック塀・外便所の軽さが併存するこの場所は、未整理とはいえ私にはとても豊かなものに感じられた。そこで、この状態をより積極的に顕在化させるためのシステム、すなわち過去を呼び覚まし、現在を刻み込み、未来への創造が共存する環境を、この敷地に与えることが重要であると考えた。即物的なディテール、抑制されたスケール、均質的な場の併置、内壁全面にわたり設置された格子棚、緑化フェンスなど、これらは何度も繰り返し使用することによってあらわれる<空間の風化>の受け皿である。

    架構ディテール

    架構図

    配置兼1階平面図
    配置図
    断面詳細図
    断面図
  • 1999 対屋の家

    建て替えのプロセスを計画する

    3世代が同居する農家のための住宅である。設計に先立ってまず重視した点は、計画対象であるこの敷地全体が、8人の住まいであると共に、農業を日々継続して営むための拠点でもあることから、日常生活と生産活動に支障をきたさないためのスムーズな建て替えの順序をどう組むかであった。具体的には、まず車庫として使われていた旧倉庫の北半分を解体し、 そこに新しい母屋を建て、次に旧母屋を解体し、そこに新たに倉庫兼作業場を建てた。最後に旧倉庫を解体してそこを庭とした。最終的には、広い中庭を中心として北側に母屋、南側に倉庫がほぼ並行して対置するプランとなった。各々の建て替えは短い農閑期に進められ、トータルで 1年半の過程であった。

    母屋である住宅本体は、敷地北側に沿って東西いっぱいに建つ。建物の外形は、東西間口約23m、南北奥行約5.8mの細長い単純な箱型である。箱を支える架構として1.8m間隔で柱梁を門型に連ね、外壁及び北側収納部の間仕切り壁が横揺れに抵抗している。建物の外壁は、東西北面を断熱サンドイッチパネルによって閉鎖的に覆い、対照的に開放的な南壁面は全面板張りとして中庭の景観に寄与している。また南面には1.4m幅の軒先が連続して、一部ベランダを支えている。一方建物内部は、敷地の高低差(約1.2m)を吸収するかたちのスキップフロアとなっている。1階に個室群と浴室、2階に食堂と居間、東側中間階に玄関と広間(和室)がそれぞれ配され、相互のフロアは1/8勾配のスロープによって連結されている。個室を除いた各スペースは、床の高さと素材によってのみ区切られており、ひとつの立体空間の中に多様な場所が緩やかに展開する構成となっている。

    夏冬及び昼夜の寒暖差が激しいこの地域にあって、安定した室内環境をより経済的に維持するための対策として、この住宅では、高気密化・高断熱化を前提として設計を行った(C値=0.82㎠/㎡、Q値=l.77kcal/㎡)。気密性能を上げることで、床下や屋根裏を含めた室内空気の流れをコントロールすることができ、気積の大きな空間全体の温度は季節を通じてほほ一定に保たれている。また熱エネルギーは全て電気でまかなわれ、屋根面には太陽光発電パネル(約5kw)が並べられている。

    東立面図
    西-東断面図1
    南-北断面図1
    西-東断面図2
    南-北断面図2
    配置図

    建替えプロセス

    1998年11月(従前の配置)
    1999年11月
    2000年3月
    2000年4月(現在の配置)
  • 1998 立体土間の家

    土間の立体化と土間空間によるヴォリュームの分節

    敷地は信濃川の支流である奈良井川の土手沿い道路に面しており、また松本市街と上高地を結ぶ国道に程近い場所に位置する。敷地の地盤面は西側の農業用水路と同レベルにあるが、その後の河川敷整備の影響で、東側の接続道路面は既存の擁壁によって地盤面から約2m高くなっている。そのため建物へのアプローチは必然的に2階部分からとなる。また敷地の南側には2階建ての隣家が近接している。

    こうした立地条件により、ここでは<西側用水路に隣接する1階ピロティ部><前面道路に連続する2階エントランス部><南面からの採光のための3階ベランダ部>といったレベルの異なる3つの外部領域が最初に設定された。

    この建物では各領域を相互に連絡する動線部が外部化(=土間化)して展開しており、それにより建物全体は四角いヴォリュームの中に外部空間が立体的に貫通する構成となっている。この土間空間の形態はまた、建物の内部空間を仕切り、さらに各階を繋ぐ内部動線の位置を決定している。

    建主は、建て替えの以前から河川敷内に小さな畑を耕作し、また用水路脇にビニルハウスを設置するほどの熱心な菜園家である。こうした生活様式への対応として、建物内外の各場所へ土足で移動できることは十分機能的であると思われた。このことはまた、すでに各々自立した個人の集合である家族に相応の個室の配列、すなわち各個室へのアクセスの独立性を高めることに対しても有効である。

    土間を除く内部空間は、立体的にひとつの連続したスペースとなっているが、ねじれの位置にある2つの土間階段のヴォリュームによって領域は曖昧かつ不均質に分節されている。夏場の東西方向の通風性はこの敷地において特に有効であり、各個室を可動式建具によってのみ仕切るようにすることで、内部全体の開放性をできるだけ確保した。 また個室全てを畳敷きとして、 土間との身体空間的な対比を強めている。

    建物のヴォリュームは、4本の支柱及びそこからの四方へ延びる片持梁により固定されているため、全体外形は宙に浮いた箱型となり、結果として周囲から孤立した様相を呈している。これは、敷地内の既存擁壁の強度が不確定であることや、交通量の多い前面道路に対する2階床レベルの設定など、環境に対する断面的な解答にその主たる要因がある。

    3階平面図
    2階平面図
    1階平面図
    配置図
    南-北断面図
    西-東断面図

  • 1995 小山のローハウス

    棟割長屋と立体長屋のハイブリッド

    東京都内の住宅地の一角に建つ、写真スタジオが併設された鉄骨造の長屋住宅である。この小さなプロジェクトは、大学研究室設立後の最初に設計依頼を受けたもので、実施設計を終えた時点から延期となっている。約110㎡の矩形敷地の中に、駐車場付きのアパート3軒と1つのスタジオの計4つの空間が、いわゆる立体長屋の形で1つの建物の中に(共有空間なしで)共存している。屋外階段からアクセスする3階のスタジオのヴォリュームは、3つのアパート内を貫通するように各室内に露出し、間口幅の狭い均質的な居住空間の中にダイナミックな変化をもたらしている。

    配置図
    内観パース
    1階平面図
    2階平面図
    3階平面図
    R階平面図
    北立面図
    西立面図
    西-東断面図
    南-北断面図